【VOL.24】MOKUBA’S TAVERN  オーナー小西武志さん

 

 

例えば、パリの「レ・ドゥ・マゴ」や「カフェ・ド・フロール」といった老舗カフェ。歴史に名を残す芸術家や文化人に愛され、今もなお街の人々に親しまれているサロン的存在です。その雰囲気を漂わすカフェが、神戸・トアロードにあります。その名も「MOKUBA’S TAVERN」。ジャズや映画、アートを愛する人々が集い語らう場所。オーナー・小西武志さんにお話を伺いました。

 

 

★いつ、どのような経緯で店を始められたのですか?

1977年、三宮センター街にジャズ喫茶「木馬」をオープンしました。ちょうど去年は30周年でした。営業販促として何かやるのは苦手なので、特に何もしてないんですけど。センター街の店で18年やって、そこで震災に遭ってトアウエストの地下の店に移りました。今の店に移ったのは2005年の3月です。当時からスタッフは若干変わったけど、店の雰囲気はあまり変わらないですね。
店を始めたのは31歳のときで、僕はサラリーマン時代エンジニア系だったのでメカニズムが好きで、例えばオーディオ、カメラにも興味があった。そして何よりジャズが好きでしたから、退職して2年くらいして、たまたまジャズ喫茶でもやってみようかと…。商売上手というタイプではないからね、レコードをかけて音楽を楽しむジャズ喫茶だったらまあラクかなと(笑)。当時は過渡期でしたが、まだまだジャズ喫茶は多かったですね。


 

 

 

★ジャズ喫茶文化はどう移り変わってきましたか?

一番ジャズ喫茶が栄えていたのは、60年代半ばから70年代半ばくらいまで。僕が店を開いた77年というのはジャズがまだまだ元気で、ムーブメントとしてクロスオーバーフュージョン(※1)が台頭してきた時代。それを反映しているような音楽もかけていましたね。「今はこれだ」というような。そういう時代を感じる音楽をリアルタイムで流すのも、ジャズ喫茶の一つの役割かもしれないしね。
最初のころはフォービートが主体でしたね。その中でビバップ(※2)や、60年代のハードバップ(※3)が好きだったから、よくかけていました。
当時、三宮・元町にはジャズ喫茶が7~8軒あって、それぞれ店の個性を打ち出していました。ボーカル主体の店もあり、新しい主流派のエイトビートっぽい音楽を流す店もあり。ジャズの音楽シーンが元気だったからできたことですね。個性を見せる中でお客さんを満足させていくという。


 

 

 

その後、80年代中ごろからは、フュージョンというような、ジャズと軽音楽やロックが融合する中で崩れてきた部分もありますね。それが致命的だとは言わないけど、ジャズが解体されたというか。一方で、ジャズファンも物質的に豊かになってきた。CDが出て、オーディオも良くなって。それが各家庭に広まったから、店でリクエストしなくてもよくなった。さらにウォークマンが出て、電車の中でも聞けるようになりましたからね。僕らが社会に出た当時、給料が1万2~3千円のときに2500円のレコードってすごく高かったわけです。だからジャズ喫茶が重宝されたんですけど。昔からジャズ喫茶って、暗くて閉鎖的で、制約が多かった部分もあってね。「静かに聴け」という暗黙の了解というか(笑)。一時は全国に550から600もあったジャズ喫茶も、今は本当に少なくなってきた。堅苦しさが毛嫌いされてきたという理由だけじゃなくって、自分の好きな場所で好きな音楽を聴けますからね、今は。だから音楽以外のものを求めてくる人が多くなっています。


 

 

 

★そういう状況で、どういう場を提供していきたいと思っていますか?

少数のジャズファンに対してというよりも、誰でも気安く来れるような店にしようと。初めてジャズに触れる人も、ジャズっていい音楽だなと感じてもらえればそれでいい。底辺を広げてもっとジャズを身近なものにしていくためには、堅苦しいイメージは取っ払わなきゃ。震災後引っ越したトアウエストその店は、そういう雰囲気で作りました。トアロードに移ってからは旅行客も増えたけど、神戸に来た旅行客の皆さんが「神戸らしい店だな」と感じれくれれば、ありがたい話です。
神戸は「ジャズの街」とPRして、ジャズストリートとか、いろいろとイベントしていますしね。ジャズストリートは北野界隈が発祥で、スウィング(※4)が圧倒的なテーマ。僕のところでは、モダンジャズを中心に幅広くジャズを広めていければと思っています。 
音楽は垣根を取っ払ったほうがいい、それは思うんですよ。
ジャズだけ聴いてても、本当の良さは分からない。いろんなジャンルの音を聞いて始めて分かる良さっていうものありますからね。朝起きてコーヒーを飲みながらバッハのゴールドベルクを聞くと本当にすがすがしい。夜はジャズのコルトレーンの「バラード」を聞くのもいい。


 

 

 

★ジャズの醍醐味、楽しみ方は?

ジャズって難しいんじゃないかというイメージもあるかもしれないけど、だからこそ面白いんです。たやすいものは飽きちゃう。自分は演奏できませんけど、もしピアノ弾けたらどんなに楽しいかと想像します。最初はとっつきにくいと思うかもしれないけど、一度親しんだら味わいがある。人間でも同じでしょ(笑)。
まずは固定観念を持たないこと。ジャズのビートって、心臓の鼓動と似てるんです。赤ちゃんにジャズ聞かせると落ち着くとも聞くし、胎教にもいいんじゃないかと。そういう意味ではジャズは本来、親しみやすさを持っているのかもしれません。
それと、余計なおせっかいが少ない。例えば他の音楽に比べて即興性、イマジネーションの領域が広い。歌詞がない曲なんかは自分のワールドで聞ける。クラシックにないようなビート感もあるし、極めて創造的でクリエーティブな音楽です。だから奏者の個性がすごく出ますよね。それがジャズの命です。いろんな音楽に幅広く触れる中で、ぜひ自分なりのジャズのすばらしさを発見してほしいですね。


 

 

 

※1 クロスオーバーフュージョン
1970年代に起こった新しいジャズのムーブメント。ジャズを主体に、R&B(リズム&ブルース)やソウル、ロックなど、他のジャンルの音楽を融合する試みが広がった

ウィンク小西さんオススメ
ウェザー・リポート 「ヘビー・ウェザー」

 

※2 ビバップ
1940年代初期に成立したジャズスタイルで、モダンジャズの起源ともいわれる。テーマ曲のコードに沿いつつも、自由な即興演奏でアレンジしていく構成

ウィンク小西さんオススメ
チャーリー・パーカー 「バード&デイズ」

 

※3 ハードバップ
ビバップを継承する形で、1950代に始まり60年代まで続いたモダンジャズの演奏スタイル。曲のコードをより細かく分けたり、テンポの速くして、演奏を一層複雑化した

ウィンク小西さんオススメ
アート・ブレイキー&ジャズメッセンジャー 「危険な関係」

 

※4 スウィング
1930~40年に流行した、ビッグバンドの演奏によるジャズのダンス音楽。ダンスホールなどでも演奏され、
エンターテイメント性の高いスタイルとなった

ウィンク小西さんオススメ
ベニー・グッドマン 「ライヴ・アット・カーネギーホール」

 

 

>>続く
7/8も引き続き、MOKUBA’S TAVERNのオーナー小西 武志さんのインタビューをお届けします。

 


 

 

インタビューを終えて!

チェット・ベイカーの物憂げな声が流れる午後の店内。壁には映画監督のサインやシネマポスター。オーセンティックな雰囲気がそこはかとなく漂うのは、そこに小西さんがいるからこそ。おすすめセレクション、ぜひ聞いてみたいと思います。

 

取材日:2008年6月12日

市内在住ライター。暮らしの中で接するあらゆる人の話に、ひっそりと息づく小さな真理。そんな“人生の知恵”に励まされ、癒される毎日です。
インタビュアー:中山 純子